本当の事なんて知らなければ良かったと今も時々思う




      その真実がどれだけ辛いものだとしても




      その存在すら知らなければ苦しむことも無い 
      



      でもそれを知るからこそ前に進めることもあると




      僕は・・・・・・・知った






















命の限りに輝いて 
第二話「春の雪」



















入学式の会場である講堂はすり鉢上の形で階段席になってをり
すでに上級生と新入生の親と思われる人たちが着席していた。
上級生に挟まれた真ん中の列にA組から順に座っていくのだが、
先ほど出席番号順に並んでから講堂に入ったのに詩織が何故か
一番前に座っていることを公は気にしつつその後姿を見つめる。












 「・・・え~、だからして皆さんは・・・」

 「・・・あ~、只今ご紹介に与りました・・・」

こういう行事に付き物の校長や来訪者の長話、
何人がその話を後の記憶に留めるのだろうか。
公も、こういうのは忍耐のための訓練かな?、
自分も将来こんなことを長々と話すのかなぁ、
などと考えながら右から左に聞き流していく。











 「続きまして、式辞、新入生代表 藤崎詩織」

 「はい!!」

進行役に高らかと自らの名前を呼ばれ立ち上がる少女、
優美に緋色の髪を軽く揺らしながら壇上へと上がる姿を
公は他の男子生徒とは少し違った思いを抱いて見ていた。
やがて始まる少女の静かな朗読、その声だけが聞こえる
流れる静寂の時の中で
公は一つの記憶を思い出していた。
目の前の幼馴染が自分に告げた決別の言葉、決別の意思、
それを告げられた日の少し悲しい思い出が公の胸に広がる。

















それは中学二年の夏をまじかに迎えていたある日。



 「・・・もう、名前で呼ばないで欲しいの・・・」



それが自分に向けられた幼馴染からの決別の言葉・・・


その当時男子で詩織を呼び捨てで呼んでいたのは公一人だけだったし、
明らかに他の男子よりも接していることも多かったのは間違いない。
幼馴染で家も隣同士という間柄ではそれは至極当然に見えそうなのだが、
しかしもうその頃には彼女は才色兼備ぶりを発揮していたのに比べて
公は勉強もスポーツもせいぜい中の上が良いとこという感じであるため
両者にはつり合いと言う名の本来なら自分達で決める筈の壁が生じていた。
そのつり合いと言うものの最も質の悪いところは当の本人達を無視して
周りが勝手に本人達が思う壁とは違う壁を作りその視点で見ることだろう。
挙句の果てにはその壁を強引に越えてこようとする異性を何の因果か、
アフターサービスとばかりに排除してくれる人まで世の中には存在する。
当然のようにご多分にも漏れず公もその憂き目に遭っていたのだが、公は
気にしなかった。正確に言うと詩織が気にしてないようなのでそれで良かった。
そう思って、いやそう信じていたはずの日々の中で突然一月ほど前から
塞ぎがちになっていった詩織を心配していた矢先に告げられた衝撃の言葉。


そして・・・・・・



 「そっか・・・詩織が・・・そう望むんなら・・・それでいいよ」



それだけ言うと公は踵を返して振り向くことも出来ずにその場を離れた。
公自身驚くほどあっさりとその要求を受け入れている自分がそこに居たが、
受け入れた理由は考えてみれば至極簡単なことだったんだと後に分かった。


       “自分は決して彼女の嫌がることをしたくない、そしてできるだけ彼女の望むことはしてあげたい”


それに従っただけのことなのだから・・・


でも何故だか分からないが止めどなく涙が出た。


帰り道、仲睦まじそうに手をつなぎ歩く幼い男の子と女の子を見て
自分たちもいつまでも手をつないで歩いていけると思っていた日々、
彼女といれば全てが輝いていると感じていた日々を思い出し、
初めて彼女を失ったという現実に気付き突然怖くなっていった。


それで分かった、自分が彼女を幼馴染としてではなく
異性として愛していたのだということを・・・・・・





そしてもう一つ知りたくも無いことも知った。
彼女を失ったことへの喪失感と心の飢え・・・


それは自分の中の先程の大義名分を簡単に蹴散らしてしまうほどとてつもなく大きかった。
それに負けてしまった時に彼女へかけた言葉への返事は背筋が凍りつくほどの事務的な言葉。


今まで保てていたはずの関係
今まで見れていたはずの微笑み
今まで感じていたはずの輝き
今まで信じていたはずの絆


それら全てを一瞬に失ったまま時は流れて三学期に光明が見える。
進路相談の時期に彼女がきら高を受けるという話を耳にしたことで
やっと覚悟を決められた、彼女を追いかけようと。


彼女に追いつこう、彼女の隣にいてもおかしくないようになろう、彼女に相応しい男になろう
そのためにまず『主人公では絶対無理』なきら高に入る、まだ一年ある、何とかなる、そう何とか     




















 「・・・そして今日この場に集いし私達435名は
  この学園で苦を共に喜びを分かち文武の両道を
  極めんと切磋琢磨することをここに誓います。
           新入生代表 藤崎詩織   」


公は求めた少女の声によって再び現実に戻される。
そして中断された邂逅を続けるかのように声に出す。

 「なったんだよな・・・」

微かな笑みと共に口にした呟きは式辞の終わりの一瞬の静寂の後の
割れんばかりの拍手にかき消されて隣の者にも聞こえることは無かった。



















詩織から式辞を渡された学生は直には答辞を言おうとはせず
マイクをスタンドから取るとゆっくりと壇上を歩き始めた。
そしておもむろに新入生を見回すとその口を開き喋り始める。

 「あーーー、新入生の諸君、入学おめでとう。
  俺は煌高校生徒会会長、三年の日野上猛だ。
  まぁ俺の名前なんかどうでもいいが君達に一つ伝えたいことがある」
  
そう言うと一旦言葉を切る、そして今度は会場全体を見渡すと続け始める。

 「高校生活というものをパラダイスに出来るかどうか、それは全ては君らしだいだ。
  生きる充実感、努力する満足感、やり遂げる達成感、そんなものが得たいんならば頑張ることだ。
  何でもいい。勉強でも、部活でも、趣味でも、遊びでも。
  この学校はそれにきちんと答えてくれる」
  
そして再び言葉を切ると少し苦笑気味の校長や教師達を見て
ニヤッと笑い次に続ける言葉のために下腹に力を込め続ける。

 「ただしやるからには半端はするな!
  突っ走れるだけ突っ走ってみろ!!
  骨は誰かが拾ってくれるさ!!
  そうして君達の手でこの学校生活をパラダイスにしてほしい!!!
  以上だ!!!


パッと見は理知的な雰囲気の少年から出るくだけた熱っぽい言葉の数々、
先程とは違った意味の静寂が流れた後固まってしまった一部の一年生や
親以外からの熱狂的な歓声と拍手に腕を掲げ答え少年は壇上を降りる。


煌高校生徒会会長日野上猛      後に公に多大な影響を与える人物の一人である。






















 「ヘぇ~、あんな人がいたとは。こりゃあ俺のチェック不足だな」

入学式終了後教室へと戻る廊下の途中で好雄はそう呟き手帳を取り出すと何か書き込み始めた。
公は先程の入学式直後ということから今書き込んでいる人物に当てをつけるとそれを聞いてみる。

 「何、好雄。君って男の情報も集めてるの?」

 「ん?あぁ、まあねぇ。『愛の伝道詩』は男女両方に幸せをお届けしなければならないのよ、これが」

 「へ~」

屈託も無く感心してこちらを見る公に好雄は少し照れくさくなり
軽く頬を赤らめるとそれを誤魔化すようにぶっきらぼうに続ける。

 「ま、まぁ、女の子の情報を手に入れるのに男の情報を持ってると役に立つときもあるんだよ。
  例えば好きな男の情報を教える代わりに自分の情報を教えてもらう、みたいにな」

 「ふ~ん」

 「公も誰か聞きたい娘がいるなら情報やるぜ?」

好雄にとっては普段通りのいつもの一言のはずなのだが予想外と言うか何というか、
腕を組みつつ顎に手をやると歩きながら真剣に考え始めてしまうという反応が返ってきた。

 「オ、オイ?何だ何だぁ!?」
 
 「・・・・・・・・・・」

 「フ~ン・・・まぁいいや、聞きたくなったら電話でもしてくれよ」

好雄が公に対してどのようなことをを察したかは分からないが
二人はそれ以上その話題に触れることは無く教室に到着した。





















その後担任の自己紹介から始まった自己紹介。

 「えっと、俺は君達の担任を受け持つことになった矢野だ。
  教師になってからまだ二年しか経っていない新米だが一年間よろしく頼む。
  じゃあそっちの廊下側の席から自己紹介してもらおうかな」

そう振られた生徒が端に座ったことを少し悔やみつつ
照れくさそうにまず自分の名前でも言おうとしたとき、

突如ドアが開き映画にでも出てきそうな黒服の男達が
これまた浮世離れした赤い縦長の絨毯をサッと広げだす。

 「アッハッハッハッ、お待たせしたようだね、庶民の諸君!
  僕が伊集院レイだ、まぁ三年間よろしく頼むよ!!ハッハッハッ」

そう薔薇でも出して投げてきそうな雰囲気で赤絨毯の上を悠然と歩き
意外とハスキーな声でとんでもないことを口走って高らかに笑い出す。

白い変形学ラン、後ろでまとめた腰までありそうな金色の髪、あまりにフェミニンな中性的美しさに溢れた容姿、etc・・・

とあまりに突っ込み所が満載の人物に公を含めた大多数の男子は唖然として、
好雄はさもおかしそうに手を叩きながら大笑い、女子の殆どは奇声を上げる、
そのある種とても現実感の薄れた状況の中で担任の矢野は何とか現実に戻り、
取り合えず登場しただけで混乱をもたらしてくれた生徒の出席を書き込む。

 「伊集院レイ“遅刻”っと」

 「ちょっ、ちょっと待って下さい、先生!」

 「何?」

 「僕はちゃんと時間通り学校にやってきました」

 「じゃあお前入学式の時何でいなかったんだ?」

『そういやそうだな、つうかいたら絶対気付く』というクラス皆の同意の疑問に
むしろそれを聞かれるのを待っていたかのようにレイは髪をかき上げ説明する。

 「フッ、この僕があんな人で溢れた場所に行くわけがないでしょう?
  伊集院家らしく御爺様と二階のVIP席で見学していましたよ」

前髪をかき上げながら話すキザな姿に女子はキャーキャー騒ぎ出す。
公は、確かにかっこいいと言うか美形だけどあれは・・・ねぇ?、
なんて考えながらやり取りを見ていた。相変わらず好雄は爆笑中。
どうだ!!と言わんばかりにレイは微笑みながら矢野を見る。

 「じゃあ、やっぱ“遅刻”だな。言っとくが身内は証人にはなんないぞ」

 「なっ!!あなたは僕の言葉が信じられないと言うのですか!?
  ・・・どうやら先生は僕のことをご存じ無いようですね?」

 「知ってるよ。伊集院本家の御曹司でこの学校のスポンサーである伊集院グループの次期後継者・・・だろ?」

 「フゥン、ご存知なんですか。なら僕に逆らうということがどういう・・・」

レイは自分の思いもよらなかった答えが返ってきたことに
イラつき自分の持つ中で最大のカードを出そうとする。

しかしそのジョーカーとも言うべきカードを嫌悪する人間は確実に存在する。
今までにこやかにしていた矢野もレイのそのカードを感じ様子を一変させる。
厳しい表情へ変わった矢野からの静かな声がレイに最後まで言わせず断ち切る。

 「ホォ、伊集院家というのは自分達が間違っていることも
  認められないほど度量の狭い一族なのか?
  伊集院レイという男は自分が気に入らないと
  自分のものではない親の力を見せびらかすような器の小さな男なのか?
  そんな男に跡取りが務まるとは伊集院グループとは随分ちゃちな連中の集まりなんだな」

かなり厳しく、しかし他のものには聞こえないよう労りつつ言う
矢野の言葉をレイは憮然と苦虫を潰した様な顔で黙って聞いていた。
その沈黙という返答に満足したのか矢野は笑顔に戻り優しく続ける。

 「なぁ伊集院、お前がそういう場所に居なければならない時は俺は何も言わない。
  でもあの時は違うだろ?
  ・・・お前は今日からきら高生なんだ、
  ならお前はきら高生として皆と入学式に一緒に出なければならなかったんだよ。
  お前にとっても入学式なんだから」

 「・・・分かりました」

 「ん・・・じゃ、伊集院は空いてる席に座ってくれ」

席に向かうレイを見て前髪に隠れて表情は分からなかったが
寂しそうな、それでいて少し嬉しそうな印象を公は感じていた。

 「はいはい、じゃあ自己紹介を始めようか!!」























再開された自己紹介は誰かさんの『愛の伝道師』発言や自分の番にはもう復活していて意外に
打たれ強いことが知られた誰かさんの自己紹介ではない自己自慢以外無難に過ぎていった。
今日最後のイベントである身体検査、これも伊集院グループの御曹司の入学ということから
駅前の伊集院総合病院から機材や医師を派遣させての人間ドッグ並みの規模で行われていく。

 「伊集院家お抱えの医師たち!!伊集院総合病院自慢の最新機材の数々!!
  僕と同じ学年になれたことを感謝しつつ存分に病巣の発見に励んでくれたまえ!!
  これほどの精密検査などそう簡単には出来ないからねぇ!!ハッハッハッハッ!!」

 「バーロー、好き好んで病気なんて見つけたくねえっつうの!!」

一人だけ着替えもせず会場の真ん中で講釈をたれているレイに
好雄はMRIの機材の迫力に少々怖気ながらも不満げに呟く。

 「でもほんとに凄いね。
  MRIにレントゲン、超音波検査に血液検査、
  他にも聞いたことも無いような機械に検査、
  おまけに何人医者がいるんだか」

MRIを終えた好雄に公は素直な感想を告げる。

 「へ!オボッチャンはとかく自慢したいんだろうよ」

 「オヤオヤ、こんな所に我が伊集院家の有り難味が分からない者がいるとは。
  君は・・・確か早乙女君だったかな?
  まぁ、とかく庶民は僻みたがるものだが
  もうちょっと君は謙虚さというものを学ぶべきではないのかな」

 「ハハッ!謙虚さのかけらも無いような奴に言われるとは思わなかったぜ!!」

いつの間にかまじかに居た意中の人物は全く臆することなく返された好雄の返答に対し、
当事者ではないのに一人右往左往して焦っている公を一瞥するとやや不満げに答える。

 「先程の自己紹介の時といい君には品位というものが欠けているようだね。
  どうだろう?医師や費用などは僕が負担してあげるから
  その低俗な脳に少しは品位と言うものが分かるように改造を受けては」

 「そりゃどうも、でもおかげ様で伊集院家お墨付きのMRIで
  俺の脳はいたって健康だそうだからそんな必要はねえよ」

 「・・・口の減らない奴だな、君は」

 「お互いに・・・だろ?」

しばし睨み合った後フンッ、と鼻を鳴らしレイは明後日の方向に行ってしまった。



















 「ねぇ、好雄。あんまりさぁ、彼に突っかかんないほうが良いよ。いくら嫌いでも」

 「嫌い?俺が?あいつを?」

 「違うの?」

 「面白い奴は好きだぜ、俺は」

 「じゃぁ何であんなに絡んでたの?」

 「俺ってばおもしろい奴見ると何かいじくりたくなんだよねぇ」
  
 「あ、あぁそうなんだ、はは・・」

そして身体計測という名の精密検査も終わり本日の行事は全て終わりということになったのだが、
その後すぐに教室を出て行く者、知り合いと待ち合わせていた者、親と帰る者など様々な中で
公と好雄はしばし教室で二人お互いのことなど色々と話しあっていた。


 「っと、そろそろ僕らも帰ろうか?途中までは一緒だよね」

 「あー、ワリィ。もうちょっと待ってもらえるか?
  ちょっと待ってる奴が居るんだけど・・・しかしおせぇな」

 「へぇ、もう他のクラスにも知り合い出来たんだ」

 「ちゃうちゃう、同じ中学の奴だよ。まぁ、なんつうか、・・・」

この時まるでタイミングを計っていたかのように
好雄の待ち人は息せき切って教室に入ってきた。

 「ごめーーん、ヨシ君!!遅くなっちゃったーーー!!」

 「おせーぞ、夕子。お前どこほっつき歩いてたんだよ!?」

 「えへへ、ごめんごめん。
  すんごく面白い娘がいてさぁ、ちょっち話してたら遅くなっちゃったのよ」

 「ったく。紹介するよ、公。
  こいつは朝日奈夕子。で夕子、こっちは主人公だ」

 「ども、朝日奈夕子、I組だよ、よろしくね!
  でも主人公ってずいぶん変わった名前だね」

快活そうに微笑み手を伸ばす深紅のシャギーの髪の少女に、
公は少しドキッとしながらもその手を受け微笑み答える。

 「はは、よく言われるよ。
  さっき好雄から聞いたんだけど
  朝日奈さんって好雄と同じ中学なんだって?」

 「うん、まぁ幼稚園から一緒なんだけどね」

 「え!?じゃあ幼馴染なんだ」

 「まぁね」

 「腐れ縁だ、腐れ縁!!」

 「うっさいぞ、ヨシ君。それより主人君・・・ちょっとちょっと」

そう言い手招きをする夕子に近づく公の耳元で夕子は小声で言う。

 「あの・・あのさぁ、主人君は知ってる?
  彼の趣味というか、仕事というか、
  ライフワークというか、生きがいというか・・・」

ふわりと香る少女の匂いと近距離からの少女の声に公は再びドキッとしながらも
彼女が何を聞きたいのかを理解し、また目の前の男女の関係も何となく理解した。

 「え?あ、あぁ、だいじょうぶだよ。少し驚いたけど別に気にしないよ」

その公の答えに先程までの微笑とはまた違った嬉しそうな笑顔を
浮かべる彼女に公は自分の推測が間違ってないことの確証を得る。 

 「おーい、二人して何してんだよ?」

 「ヨシ君ってば結構変わってるけど根は良い奴だから
  よろしくねーってヌシ君にお願いしといたんだあ!!」


 「ヌ、ヌシ君!?」

 「そ!ヌシビトコウだからヌシ君!!なんだけど・・・やだ?」

 「い、いや、別にいいけど」

 「それよりお前もずいぶんと変わってると俺は思うぞ、夕子」

 「まぁお互い様ってことでいいじゃない。
  それよりここに居てもしょうがないから帰らない?お茶してこーよ!!」

 「まったく誰のせいでこんなに遅くなったと思ってんだよ」

言うほど怒ってはいない好雄と自分のペースでことを進める夕子、
二人を見て公は素直にお似合いだと思ったし、また羨ましくもあった。

 「じゃあ僕は帰るね」

 「え?公は行かないのか?」

 「えーヌシ君行かないの?何で、何でー?行こうよ!?」

 「んー、そんなに鈍感なつもりはないんだけどな。二人で行ってきてよ」

公の言いたいことが分からないほどの鈍さを生憎と持ち合わせていないこの二人は
互いに顔を見合わせると公の気の遣いは嬉しくも自分達には必要ないことを告げる。

 「確かに俺達付き合ってるけどさ、
  でも二人きりでいつも居たいって訳じゃないんだぜ。
  だから行こうぜ、公も」

 「そうだよ。人数多い方が騒げて楽しいじゃん」

 「でも・・・」

 「だー!だからいいっつうの!!
  さ、一緒に行くぞ。今日は三人の入学祝だ!!」

 「行こー、行こー!!あたし駅前にすっごいいい感じのカフェ見つけたんだ!!」

 「あぁ、駅の裏のビルの二階にあるとこだろ?」

 「え、ヨシ君もう知ってたの!?」

 「バッカ、お前俺を誰だと思ってんだよ?」

 「タハハ・・・ついていけるのかな、僕・・・?」

両腕をムンズと二人に掴まれズリズリと引きずられてゆく公が
廊下の窓から外を見ると桜の花はまだ春の雪のように散ってゆき、
儚くも美しい景色を命を散らして創り上げていく様が見えていた。











                                          <to be continued>





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