『いま現れました! 2番ポートです!』


ルカの街のそこかしこに設置された、スフィアモニター。
そのスピーカーから、実況アナウンサーの興奮気味の声がひびき渡る。


 『3年前のトーナメントで奇跡の、そう、奇跡としか言いようのない優勝劇を演じた、
  まさかまさかのディフェンディング・チャンピオン、ビサイド・オーラカの到着です!
  もはや“エボン1000年の7不思議”のひとつにも数えられるオーラカが、
  いま、ルカの2番ポートに到着しました!』


ホメているのかケナシているのか分からないアナウンサー。
そんな彼に対し、ゲーム解説者の方は冷静なコメントを出す。


 『いや、さすがはチャンピオン、前回大会にくらべて、声援の大きさが違いますね。
  やはりファンも、今回も彼らが何かしてくれるのではないかと期待しているんですよ』

 『ははは、しかし、これでまた1回戦敗退ということにでもなれば、
  また元の「最弱伝説」に戻ってしまうんじゃないでしょうか?
  今年のゴワーズは、これまでとはひと味もふた味も違いますからねぇ、
  私には、マグレが2回連続で通用するとは思えないんですよ』


以前より、露骨にルカ・ゴワーズの肩を持つことで有名だったこの実況アナウンサーは、
同時にビサイド・オーラカを小バカにしたコメントを吐くことでも有名だった。

しかし、冷静な解説者は、そんな彼のコメントにこれまた冷静なコメントを返す。


 『たしかにビサイド・オーラカは、過去20年以上に渡って1回戦で敗退してきたわけですが、
  着実に力をつけてきていたことは事実です。前回大会でも、ルカ・ゴワーズに勝てたのが
  マグレだったとは思えません。その証拠に、今年はオーラカの俊足フォワード・ダットが
  ゴワーズの総監督じきじきの要請により、移籍を果たしていますからねぇ』

 『それは確かにそうかもしれませんが……』

 『まァ、まだ1試合も見ていないわけですから、
  コメントはもう少しアトになってからでもいいんじゃないですか?』


食い下がるアナウンサーを軽く制すると、解説者は話題を変え、その他のチームの現状について語り始めた。
仕方なく、アナウンサーもそれに合わせる。




 「なぁ、ワッカ」

 「ああん?」

 「チャンピオンだよね、オレたち」

 「そうだ、ディフェンディング・チャンピオンだ。正真正銘のな!」


一連のやり取りを聴いていたティーダが、そのあまりの言いように呆れ返り、ワッカに話をふる。
するとワッカは、気にしているのかいないのか、自身の胸を叩いて威張って見せた。












Round 2 『 チャンプの到着 』











そんなワッカの様子をシラケた表情で眺めていたティーダが、ついに本音を吐く。


 「……のワリにゃあ、なんなの、この扱い?」

 「そ、そりゃあオマエ……」


軽く首をふり、ワッカに岸壁を見るよう促すティーダ。
その先には、出迎えのファンがわずかばかり集まっているだけの、2番ポートがあった。
そして、その更に向こうの3番ポートには、岸壁が崩れるのではないと思うほどの、黒山の人だかり。
もちろんそこは、この日の午後にキャンプから戻ってくる、ルカ・ゴワーズの船が停泊する場所である。


過去のトーナメントにおいて、「23年連続1回戦敗退」という金字塔(?)を打ち立てた、
『最弱伝説』ビサイト・オーラカ。その伝説は、今も生きているのか。

「今年もやっぱり1回戦敗退」という大方の予想を裏切り、選手権を制したのが3年前。
それ以来の開催ということもあり、今大会の行方はかつてないほどの注目を集めている。

思いがけず“3年間も”チャンピオンシップを維持したビサイド・オーラカは、
当然のことながらディフェンディング・チャンピオンとしてルカに帰ってきた。
しかし、「常勝ゴワーズ」などと比較すると、その扱いはお世辞にも良いとはいえない。

やはり人々は、ゴワーズが圧倒的な強さを見せ付けて優勝することを期待しているのだ。




と、そのとき、人々の間から歓声とも悲鳴ともつかない声が上がり、全員が一斉に空を見上げた。
そこに現れたのは……


 「アルベドだ! アルベトの飛空挺だ!」

 「でっけぇ〜!」

 「かっこいい! 乗ってみた〜い!!」

 「サイクスが来たんだ!」


スフィアプールに匹敵する巨大な船体、大気を切り裂く流線型のシルエット、
そして、かすかに金属音の混じった轟音――それは、エボン寺院と和解したことにより、
ベベル近くに新たな“ホーム”の建設を許された、アルベド族の飛空挺だった。

ブリッツチーム、アルベド・サイクスが、ルカに到着したのである。


 「サイクスかぁ……前はオーラカに負けちまったからなぁ」

 「それ言うなら、ゴワーズだって同じだろ?」

 「同じじゃねーよ。だってアイツら、あっちこっち作業にかり出されて、
  ロクに練習もできねぇって話じゃねーか。今年も1回戦敗退じゃねーの?」


スピラ各地の復興事業を手助けするため、この飛空挺で日夜飛び回っているアルベド族。
この仕事には、ブリッツボールの選手たちも例外なく従事している。このため、前評判の段階で
サイクスは練習不足を指摘されており、1回戦突破は困難といわれているのだ。

そのとき、人々の落胆とも同情とも取れる声をさえぎるように、
例のアナウンサーの声が再びこだました。


 『おおっ、ついに、ついに到着です! みなさん、3番ポートです!
  優勝候補筆頭、チャンピオン奪還を至上命令として“凱旋”した、ルカ・ゴワーズです!!』


えこひいきアナウンサーの絶叫に、出迎えたファンが大歓声でこたえる。
最強の常勝軍団、ルカ・ゴワーズが到着したのである。


 『お聞き下さい、この大歓声。やはり、やはりゴワーズ人気は不動だった!
  ディフェンディング・チャンピオン、ビサイド・オーラカを押しのけて、ルカ・ゴワーズ凱旋です!!
  今年はどんなすごいプレーを見せ付けてくれるのか!?』


 「やれやれ、あのタコアナウンサー、3年前とちっとも変わってねーよ。
  前だってあんなこと言って、オレたちが勝ったんじゃねーか。また恥かきてーのか?」

 「お、おい、今回はあんなことするなよ?」


3年前の忌まわしき(?)記憶が甦ったのか、ワッカは苦笑いしながらティーダを制した。
前回大会のとき、オーラカはゴワーズと同じ船でルカに入ったのだが、そのとき、例のアナウンサーの
あまりの言いように火のついたティーダが、とつぜん誘導係のメガホンを奪い取り、
岸壁に置いてあるコンテナの上によじのぼって、「オーラカ優勝宣言」を強行したのだ。

あのときは結果的に優勝できたから良かったようなものの、あれで負けていればいい笑い者である。
ワッカとて、負けるつもりなどないのはティーダと同じだが、さすがにあんな想いはゴメンだった。


 「なんでさぁ? いいじゃないか、今回もでっかくブチ上げようぜ!」

 「だ、だめだっちゅーに、ヤメれ!」


ワッカの心配をよそに、またしてもコンテナによじ登ろうとするティーダ。もちろんワッカは止めに入る。
しかし、今回はちょっと様子が違っていた。


 「いいじゃないすか!」「そうっすよ、やりましょう!」「オレ、登っちゃお♪」

 「あっ、こら、おめーらヤメれ!」

 「おっ、いいぞいいぞ、やれ〜!」


ティーダを止めるのに手一杯のワッカ。そんな彼を横目に、オーラカの面々が次々とコンテナによじ登る。
そして、ワッカが想像していた「最悪のシーン」が展開された。

まず、最初に登った金髪の青年ジャッシュが気勢を上げる。3番ポートに今まさに降り立たんとしている
ルカ・ゴワーズの面々を指さし、岸壁ごしにタンカを切ったのだ。


 「おいダット、それからルカ・ゴワーズ、いい気になってんじゃねーぞ?
  今回のディフェンディング・チャンピオンは、オレたちビサイド・オーラカだ!
  そしてオレたちの目標は……」



 「「「「優勝だ!」」」」



 「あ、たのむ、それ以上は……」


ビサイド・オーラカは、声を合わせて叫ぶのが大好きだ。
コンテナの上に並び、観衆の注目を集めたオーラカの面々は、どこか恍惚としている。
ワッカは全てをあきらめて頭をかかえた。そして……



 「「「「優勝だ、優勝だ、優勝、優勝、優勝だ〜!」」」」



 「だぁ〜っ、やっちまった! あのバカタレども〜」

 「ハハッ、いいぞいいぞ〜!」


頭をかかえてしゃがみ込むワッカのとなりで、ティーダはひとり愉快そうに笑った。
ワッカにとっては、それは「針のむしろ」に等しい恥ずかしさ。前回ティーダがタンカを切ったあと、
取り囲んだ観衆の間から漏れ聞こえた冷笑が、今でも耳に残っている。


 「こいつら恥ってもんを……」



 「いいぞ、オーラカ!」

 「よっ、ディフェンディング・チャンピオン!」



 「!?」


背後から投げかけられた声に、ワッカは顔を上げた。
反射的にティーダの方を向くと、彼は手をふって自分ではないことをアピールしている。
声の出どころを探そうと、さらに首を回すワッカ。


 「あんなタコアナウンサー、言いたいだけ言わしとけ!」

 「そうだそうだ! “奇跡”でも“マグレ”でもなんでもいい、またゴワーズ蹴散らしてくれぇ!」

 「おぉ〜、行け行けぇ〜! たのむぞ、ワッカ!!」



 「おっ……!」


ワッカは自分の耳をうたがった。夢なら覚めないでほしいと心底思った。
オーラカをあざ笑うために集まっていると思っていた観衆が、さかんに応援している。
これは、ワッカの長いブリッツ生活の中で初めての経験だった。


 「お、応援してくれるのか、俺たちを……!?」

 「へへっ、な? 心配ないって言ったじゃん♪」

 「よ、よぉーし、やってやる、やってやるさ!
  ビサイド・オーラカは今年も優勝する。ゴワーズを倒すぞぉ〜!」


 「「「「「お〜っ!!」」」」」


コンテナの上に陣取ったビサイド・オーラカの面々と、
人数こそ少ないものの、2番ポートに集まったファンたちが何重にも円陣を組み、一斉に雄叫びを上げた。











Continues to Round 3

 

 

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